ABOUT
BIOGRAPHY

塩井一孝(しおい かずたか)
美術作家。1987年生まれ、福岡県宗像市在住。福岡教育大学大学院教育学研究科修了、修士(教育学)。身の回りの風景を題材に、彫刻やインスタレーションを制作している。これまでヨーロッパやアジア各地で展覧会やアートプロジェクトに参加。作品はマレーシア国立美術館ランカウイ、バンドン工科大学、世界遺産・宗像大社に収蔵されている。現在、福岡教育大学および日本デザイナー学院九州校で非常勤講師を務めている。
STATEMENT
私は自分の内側にある自然をどのように表現するか、ということに関心がある。九州の山あいで育った私にとって、新緑の風景や川遊びは身近なものだった。山道の木漏れ日や渓流のきらめき、河原で拾った小石の手触り。幼い頃に故郷の自然から受け取った光や音、身体に残る感覚が創作の原点となっている。
旅をすると、ふとその記憶が呼び起こされることがある。見知らぬ土地の風景や人との出会いが、幼少期の体験や日常と重なり合う。それらは身体の内側で過去の経験と混ざり合い、やがて「自分の中の自然」として別の姿を帯びていく。
私はその感覚を物質化し、作品として立ち上げようとする。それは旅先で見た風景の再現や自然の模倣ではない。自分の中で変容した光の記憶や場所の気配が、素材や空間を通して現れる状態である。
美術は私にとって、自分の存在と世界との関係を見つめ直す方法である。表現を通して、ものごとの見え方を少しずつ開いていきたい。
2026年5月29日
塩井一孝

CV
学歴
2011 福岡教育大学大学院教育学研究科修了 修士(教育学)
2009 福岡教育大学教育学部卒業 学士(芸術)
職歴
2026 - 現在 日本デザイナー学院九州校 非常勤講師
2025 - 現在 福岡教育大学教育学部 美術教育研究ユニット 非常勤講師
2024 - 2025 九州大学芸術工学部 非常勤講師
2011 - 2021 株式会社鎚絵製作部 勤務
審査員
2025 第56回福岡市美術展彫刻部門 審査員
2025 第50回宮崎市美術展立体部門 審査員
主な個展
2025 塩井一孝展「偶然のランドスケープ」、みぞえ画廊 福岡店(福岡、日本)
2025 塩井一孝展「Light of Langsuir」、Artist Cafe Fukuoka(福岡、日本)
2024 塩井一孝「Clad in Light」、ソーシャルグッドギャラリー(東京、日本)
2024 Kazutaka Shioi: Light of Langsuir、マレーシア国立美術館ランカウイ(ランカウイ、マレーシア)
2023 塩井一孝展「光の呼吸」、みぞえ画廊 福岡店(福岡、日本)
2022 塩井一孝展「写光石と光の記憶」、IWASI labo(太宰府、日本)
2019 塩井一孝展「写光石と鉄の彫刻」、gallery wabi(宗像、日本)
2018 塩井一孝展「写光石」、ECRU.(福岡、日本)
2011 塩井一孝展「ランドスケープの皮膚」、中屋ビル・ギャラリーエレベーター(北九州、日本)
2010 塩井一孝展、konya-gallery(福岡、日本)
主なグループ展
2025 Langkawi International Marble Art Camp 2025 (LAIN MACAM 2025)、
マレーシア国立美術館ランカウイ(ランカウイ、マレーシア)
2025 Barehands Residency, Kuala Lumpur、Galeri ASWARA(クアラルンプール、マレーシア)
2025 Re-aksi、Soemardja Gallery(バンドン、インドネシア)
2023 Contemporary Jewellery Symposium Tokyo -Pendants-、Atelier Drechslerei、
Munich Jewellery Week 2023(ミュンヘン、ドイツ)
2018 第18回平遥国際写真祭、平遥古城(山西省、中国)
2016 LIFESTYLES: Kunst aus Fukuoka, Japan、WESTWERK(ハンブルク、ドイツ)
2014 ENCOUNTER 既知との遭遇、北九州市立美術館 黒崎市民ギャラリー(北九州、日本)
2014 FANTASTIC ARCADE PROJECT:さよならの向こうがわ、魚町サンロード商店街(北九州、日本)
2013 EWAA Group Exhibition for Charity、La Galleria Pall Mal(ロンドン、イギリス)
2012 WATAGATA Arts Festival 2012、旧釜山沿岸客船ターミナル(釜山、韓国)
2007 台北ー福岡 現代美術交流展、關渡美術館、国立台北芸術大学(台北、台湾)
アートフェア
2026 KOBE ART MARCHÉ 2026、神戸メリケンパークオリエンタルホテル(神戸、日本)
2025 KOBE ART MARCHÉ 2025、神戸メリケンパークオリエンタルホテル(神戸、日本)
2021 Kyushu New Art、博多阪急(福岡、日本)
滞在制作
2025 Barehands Residency Bandung 2025、Indeks、バンドン工科大学(バンドン、インドネシア)
2024 Barehands Residency 2024、Akaldiulu(フル・ランガット、マレーシア)
2024 メッセンジャー・イン・レジデンス、TEAM ヒラクフタバ(双葉、日本)
2016 LIFESTYLES, Kunst aus Fukuoka, Japan、WESTWERK、
ライフスタイルズ展実行委員会(ハンブルク、ドイツ)
2012 WATAGATA Arts Festival 2012、釜山福岡アートネットワーク(釜山、韓国)
2007 台北ー福岡 現代美術交流展、国立台北芸術大学(台北、台湾)
パブリックコレクション
2025 《Dialogue》マレーシア国立美術館ランカウイ(ランカウイ、マレーシア)
2025 《Stone Garden》バンドン工科大学(バンドン、インドネシア)
2022 《写光石の標本:宗像大社 No. 1》宗像大社(福岡、日本)
助成
2025 塩井一孝「Light of Langsuir」、宇久美術基金
2024 Barehands Residency 2024、国際交流基金クアラルンプール日本文化センター
2024 Barehands Residency 2024、宇久美術基金
2023 塩井一孝展「光の呼吸」、宇久美術基金
学術論文
2026 Dadang Sudrajat; Kharista Astrini Sakya; Tamara M. Alamsyah; Tedi Supriyadi; Kazutaka Shioi
「Institutional Pedagogy and Artistic Orientation: Examining Final Project Themes
among Visual Arts Students」、Society for Research and Knowledge Management Ltd、
pp. 728–751
2011 塩井一孝「環境造形の研究―身近に存在する森を題材として―」、大学美術教育学会、pp. 175–182
出版物
2025 塩井一孝「Light of Langsuir -A New Myth-」、Barehands Residency
主な掲載
2025 Institut Teknologi Bandung (ITB)「CAIRRプログラムと『Re-aksi』展を通じ、
FSRD ITBが国際アーティストの創作プロセスを学生に紹介」
2024 The Star「アーティストが創作を磨き、新たな文化やアイデアに触れるマレーシアのユニークな場」
2024 designboom「300個の『写光石』が呼び起こす、震災前の福島の海辺の風景」
2023 designboom「光を反射する石の造形が、太陽光によって色を変える」
2026年8月31日更新
TEXTS
光と石と手と
川浪千鶴(インディペンデント・キュレーター)
2023年10月25日
塩井一孝は、2018年の個展開催に際して、作品と展覧会のタイトルを「写光石」と名付けた。この、詩的でどこか不思議な印象を与える造語は、以後作品の一貫した名称として使われ、今や塩井の代名詞となっている。作品だけでなく、彼の創作を支える基本概念や創作言語(スタイル)を象徴する言葉、写光石。「光」を「写し」た「石」と読み換え、制作工程を読み解きながら、その存在を探ってみよう。 まず用意するのは、思い出の風景写真。写真とは、目に「映った」反射光をカメラで「写し」撮ったものということができる。それを水溶性のインクを用いてプリンターで和紙に「移し」取る。次いで和紙に水を含ませながら、河原や海辺で集めてきた小石の表面全体にしっかり密着するように貼り付けたのちに乾燥させ、最後にクリアなウレタン塗料でコーティングして完成となる。 塩井は風景写真を「記憶の光」と呼ぶ。ある時、ある場所でふいに目に飛び込んできた風景の像(かたち)をとどめた写真には、確かに一瞬の光が記録されている。そして、人はその像の断片をかけがえのない記憶として無意識の内に心にも定着させている。 質感のある和紙に水溶性インクで印刷され、さらにそこに水が加えられることによって、色はかすれ滲み、溶け混じり合う。映り写され移し取られた風景は次第に輪郭を失っていく。私たちの心に残る記憶の多くは曖昧だ。隅々までクリアなイメージではなく、忘れられない雰囲気や気配をこのようにして写真から抽出することによって、写光石は「過去の光の出現」の現場となりうる。 写光石における「石」は、記憶の光を表面にとどめ、それを握りしめるための支持体や基盤ではあることに間違いはないが、同時に光の対比として重要な位置を占めている。 光の痕跡を人工的に蓄積したデータとしての写真と、膨大な時をかけて自然が生み出した硬質な物体としての石。儚さ(ヴァニタス)と永遠の対比は、古今東西の芸術で試みられてきたテーマだ。儚さは時の移ろいに結びついた観念だが、塩井は写光石を通じて、儚さと永遠を二項対立させるのではなく、その境界にとどまり続けることの重要性を示唆している。過去から未来へと流れ去るだけが時ではなく、今ここが常に新たで大切だとする考え方は、神道の「常若(とこわか)」の思想にも通じる。2022年に、285個もの「写光石」を配した大型のパネル作品が宗像大社に奉納されたことも腑に落ちる。 その一方で、写光石そのものに儚い、揺らぎの仕掛けがあえて施されていることがとても興味深い。写光石は完成されて終わりではない。目に見えないスピードで静かに生き物のように変わり続ける。年月を重ねた、あるいは屋外で長く陽の光を浴びた写光石は次第に色褪せ、白んでいく。環境による変化を受け続けた記憶の光は、最終的には存在の微かな痕跡だけになるかもしれない。 変容する自然に向き合う眼差しは、塩井が学生時代から長く扱ってきた鉄という素材からの影響が大きい。大学では鉄の彫刻家阿部守のもとで学び、環境造形やランドスケープに関心を寄せながら作品制作を行った。また修了後に鉄を扱う造形工房に勤務した経験も原点のひとつに数えられる。鉄を1200度近い炉で熱し叩き、高温の炎で溶断、溶接する作業を通じて、塩井は黒く重厚な鉄が、光輝きながら柔らかく美しく変化する、神秘的な様に何度も見惚れたという。鉄と身体の関係性は、光と身体のそれへとつながっていく。塩井は、鉄を通じて「自分の中にある自然」に気づき、「自然と自分の境界を探る」というテーマはそこから生まれたと語っている。 最後に、写光石を握る鑑賞者の「手」について補足したい。個展会場の白いテーブルの上の置かれた色とりどりの石たちには、どこか厳かな雰囲気とつい触れたくなる親密さが共存していた。手の上に石をひとつ置いてみてわかったことがある。私の掌(たなごころ)にすっぽり収まった写光石、それをみているのは目だけではなかった。小さな石の存在感を感じつつ、光の在処を遠く深く探っているのは、私の身体全体だったのだ。
DOWNLOAD
-
PORTFOLIO (JP)
-
PORTFOLIO (EN)
-
CV (JP)
-
CV (EN)